酒飲みの探偵

イアン・ランキン描くエディンバラの刑事ジョン・リーバスは、17作目『最後の音楽』(2007、翻訳2010年)で退職したのですが、『他人の墓の中に立ち』(2012、翻訳2015年4月)で復活しました。さらにまだ2作もあるようですが、ランキンの別シリーズの主人公がわき役で出てくるのも面白い。それも現役酒飲みのリーバスに対して、『監視対象』でデビューした禁酒中のマルコム・フォックスは内部監査部門という警察官を調べる嫌われ役です。しかしアル中から立ち直ったのは偉いけれど、酒を飲まない探偵ってやっぱり物足りない。
『最後の音楽』で宿敵カファティの命を仕方なく助けてしまったリーバスは、『他人の墓の中に立ち』では臨時雇いのような民間人の立場で、元部下の部下として働く。煙草も酒も今まで通り。未解決の事件の捜査と言うのは、ロスのハリー・ボッシュと似ている。酒をたくさん飲むところも。でもリーバスはボッシュほどもてないか。主人公の容姿についてありきたりの描写をしないところは評価しますが、「でぶ」と言われる事もあるので、少し太り気味かも。その辺りも親近感を感じます。
リーバスの趣味が酒と煙草とロックと言う点も共感しますが、酒を飲んでの交流や本音が描写の厚みにつながり(本当?)、捜査の進展にもなる。それと僕はこんな酔っ払いではないと、自分と比較して安心する部分も。一方禁酒派の探偵は、酒飲み道を突き詰めたと言うか、間違えたと言うか、それはそれで合理的な判断なのでしょうが、物語を推進するドライブにはならないか。改心した元アル中よりは、老境に達しても飲み続ける意志?を持つ探偵の方が共感できます。