秩序の中の混沌

 ビッグバンド・ジャズはけっこう好きですが、定番のエリントンとかベイシーには関心がない。白人トランぺッターのドン・エリスの変拍子のバンドとか、クラーク=ボラーンのビッグ・バンドなどが好きです。クラーク=ボラーンはMJQで有名なドラマーのケニー・クラークがヨーロッパに渡り、ベルギー出身のリズムやハーモニーが自在に変わる中で欧米のソロイストが刺激的なアドリブを繰り広げる。ピアニスト・作編曲のボラーンが複雑なアンサンブルを取り仕切るその手腕がすごいです。サッド・ジョーンズとメル・ルイスの『セントラル・パーク・ノース』も。もちろんギル・エバンスのジミ・ヘンドリックス曲集や、カーラ・ブレイのカラフルや演奏や、ジャコ・パストリアスのエレベーがメロディーやアドリブの主役となるビッグ・バンドもいいです。ミュージック・インク拡大版のチャールズ・トリバーのアルバムも捨てがたい。
 中でもイギリスのマイク・ウエストブルックの『メトロポリス』がいい。これはブラスの咆哮が続く中、次第にエイト・ビートのロック・ドラムが入ってきて、混沌が秩序の中に入り込んでくる。ロックにおけるプログレ、アート系もそうですがイギリスってジャズでも知的で、でも飛んだスタイルがあるのは不思議な気がするの。ウエストブルックもその系列で、シンフォニック・ジャズ・ロックとも一部で呼ばれているが、僕はニュージャズ・ロックと呼びたい。
 ま、セシル・・テーラーのような本物のニュージャズにおける美しい混沌は好きだけれど。で例えば、昔は難しく思えてあまり聞かなかったオーネット・コールマンの『ゴールデン・サークル』など、オーネットのアルトやヴァイオリン、そしてトランペットのフリーな演奏ももいいけれど、バックのチャールズ・モフェットがかなりステディなフォー・ビートを叩いている事に気付く。もっと弾けて、飛んでもいいけれど、この真面目なバックのリズムが奔放な管楽器の演奏を支えているような気がする。
 100%の混沌を望む程ワイルドになれない、中途半端な聞き手としては、時々秩序の感覚に戻ってくれるビートの上でのフリーが好きだと言えるかな。