エレピと1970年代

1972年に33歳で銃で撃たれた天才トランペッター、リー・モーガン最後のリーダー・セッションですが、ビリー・ハーパーの曲を冒頭ともう1曲演奏しています。ピアノはハロルド・メイバーン、フルートはボビー・ハンフリー。ブラック・パワーの影響を感じさせるスピリチュアルなジャズです。何度も聞いているのですが、ある時ビリー・ハーパー作曲の「カプラ・ブラック」や「クローケー・バレー」に混じって、”In What Direction You Are Headed?”という曲・演奏がいいのでこれ作曲はハーパーかモーガンかなと思っていたら、ハロルド・メイバーンの作曲でした。しかもメイバーンのエレクトリック・ピアノの演奏がいい。でも他の曲でのアコースティック・ピアノの演奏はまあまあ。
 エレクトリック・ピアノと言えばやはり同じ1972年のReturn to Foreverがジャズのレコードではない売れ行きで、日本のジャズ喫茶を席巻しました。あまりかかるのでこのアルバムになると店を出る客もいた程でした。リーダーのチック・コリアはアコースティック・ピアノでもNow He Sings Now He Sobsでそれまでにない清新なプレイで評判を呼びましたが、サークルというニュー・ジャズ的なグループを経て、こんどはニュー・エイジ的なReturn to Foreverというバンドを結成して、同名アルバムを出します。このエレクトリック・ピアノがチックのアタックの強いプレイ・スタイルにぴったり。またスタンリー・クラークの超絶技巧のウッド・ベースが強力無比でした。
 ジャズのエレピと言えば、1歳上のハンコック(1940年生まれ)もまたHeadhunter(1973)のエレクトリック・ジャズでジャズ・ファンクを牽引し、フュージョン・ジャズではジャズ・クルセーダーズあらためクルセーダーズのキーボード奏者ジョー・サンプル、そしてスタッフのリチャード・ティーあたりが代表でしょうか。実はあのビル・エバンスが1970年に出したエレクトリック・エバンスのはしりとも言えるFrom Left to Rightはジャズ・ファンには評判が良くないようですが、僕はLPとCDの両方を持って時々聞いています。それと1971年のThe Bill Evans Albumは前作の試行錯誤を経たそれなりに完成されたエバンスのエレクトリック・ピアノでした。
ロックでは、イギリスのジャズロック・バンド、ソフトマシーンの幾つかのアルバム。エレピをとても効果的に使用した曲が多い。ご存知のようにソフトマシーンというバンド名はバロウズの作品からもらったものです。それとジェフ・ベックのBlow By Blowでは、ベックのギターに絡むマックス・ミドルトンのエレピがいいです。そう言えばソウル・ミュージックではダニー・ハザウェイのエレピの弾き語りも捨てがたい。
 写真はビル・エバンスのFrom Left to Right。左(アコースティック)から右(エレクトリック)へ。