『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)

1986年に結成されたNWAの成功と崩壊(と再結成)の物語。メンバーは今でも40代後半か50そこそこなので、19歳から22歳の若者たちだった。NWAはNigga with Attitudeつまり「主張する黒人」で、もちろんNiggaは黒人への差別語を黒人たちが逆手にとって自分たちしか使えない言葉としての意味を付け加えています。映画のタイトルもNWAの1989年のデビュー・アルバムと同じで「コンプトン直送」、「混じりっけなしのコンプトン出身」という意味です。ロスのゲットーとも言われるサウス・セントラルよりもさらに南にあります。サウス・セントラルというと映画でも扱われていましたが、1991年の暴動でも有名になりました。ニューヨークのブロンクスと並ぶ、人種差別などへの抗議が生まれるhoodですね。hood はneighborhoodから来ている「近所」ならぬ「評判の悪い地域」)または直接的に「ゲットー」を表して、アイス・キューブが主演したBoyz n the Hood(1991)もそうです。
 さて映画はまあまのできです。監督のゲアリー・グレー(黒人)は20代の時からアイス・キューブのビデオを撮ってきた仲間の様です。結成時の高揚と、有名になっていくにつれて出てくる亀裂、そして決定的な分裂に至る過程を友情と暴力とセックスもからんで、青春映画的な部分と、ロスの暗部を人種差別と警察の暴力を印象的に描いています。”F××k the Police”と叫びたくなるのがよく分かるような理不尽な警察の横暴さ。ただ2時間半の長さは必要がなく、2時間に縮められます。
 しかし見どころはけっこうあります。NWAの運営におけるイージーの役割、ユダヤ系マネージャーの存在など、何となく知っていたけれど曖昧だった部分の情報の確認として。アイス・キューブを演じている俳優はずいぶんと似ているなと思っていたら本人の息子が演じていました。
しかし映画的な評価とは別に、この若者たちが自分たちの能力を生かして成功した後に来るもへのあまりにも無自覚な点が印象的でしたね。成功に付随するお金、群がってくる女性たち、そして仲間への疑いなどが細かく描かれますが、社会の不公平や人種差別への抗議を自分のスキルで、過激なリリックまたはライムで主張した後に来るもへの、成功した後に送る生活への展望について少しも思いを致すところのない若者たちに、少しだけこれでいいのかなと思ったのは老人の繰り言なんでしょうね。