「文芸共和国」とは

 主として西洋思想・哲学の教員による大学内の研究会に久しぶりに参加。
 「文芸共和国」という耳慣れないタイトルに惹かれて、少し遅れて出席しましたが面白かったです。近世ヨーロッパの「文芸共和国」(respublica litteraria; république de lettres) とは近世ヨーロッパの知識人が国家や宗教の境界を越えて知的に交流する場であったようです。発表はヴォルテールを代表として当時の文芸共和国」の中心であるパリを離れて、スイスのジュネーヴを中心にもう一つの文芸共和国を作ったことに関するものでした。でも何故ジュネーヴか?ジュネーヴは知的自由とは程遠いカルヴィ二ズムの都市ではなかったか?理由はカルヴィ二ズムが寛容になっていった時期と重なるというものでした。
 国境を超える知の交流の道具は当時の知識人の共通語であるフランス語(もっと前だとラテン語、現在だと英語でしょうか)、それと書簡というのも興味深いです。「文芸」がレター、つまり文字をメディアとして、しかも手紙の形で遠くの教養人をつなぎ、書簡集として文学的なテキストとして残っている。これが現在ならインターネットで「文芸共和国」ができるかもしれませんね。
 イギリスで言えばジョンソンは博士など当時の知識人が集まった「コーヒー・ハウス」もまた「文芸共和国」と言えないだろうか。アメリカでは19世紀前半のコンコード、ボストンを中心とした文芸ルネッサンス、また1902年代のハーレム・ルネッサンスも。おそらく時代と場所をかえ、制度ではなく知的運動としての「文芸共和国」は様々な形で誕生してのではないだろうかと愚考しました。