Lost City Radioの死と記憶

 北海道支部から同志社大学へ赴任した藤井光君の翻訳がすでに4冊目。実は2010年10月の英文学会北海道支部大会での藤井君のこの作品に関する発表を僕が司会させてもらいました。その時の会場の雰囲気や質問の一部も鮮明に記憶しています。
 さてペルー出身のアメリカの作家ダニエル・アラルコンによる『ロスト・シティ・レディオ』も記憶に関する小説のような気がします。南米のとある国の内戦が終わったばかりの首都で行方が分からなくなった人に呼びけるラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」の女性パーソナリティー、ノーマの所に父の行方を探す少年が訪れる。その少年が携えているリストにはノーマの夫の名前もあった。
 この行方不明者への呼びかけで思い出すのは、9.11の時の行方不明者のチラシです。その時点で大半の人は亡くなっているのですが、そのチラシは死者への呼びかけ、つまり残された人の記憶のためという風にまとめることも出来ます。死者は二度死ぬ。肉体的に物理的に死に、その事後に生き残った人の意識の中でもう一度なくなり、そして記憶されていく。
 このペルー出身のアメリカの作家ダニエル・アラルコンによる南米を舞台とする作品となると、これってアメリカ文学なのという気もします。英文学がラシュディやオンダーチェも含むように、アメリカ文学アメリカ在住のアメリカを舞台とする作品だけではなく、もう少し幅広くとらえなければならないよう時代になってきたような。