煙の樹

 デニス・ジョンソンの『煙の樹』を翻訳をした藤井君から頂く。「全米図書賞」受賞、「ニューヨーク・タイムズ年間最優秀図書」にも選ばれた作品で、600頁を超す分厚い本を札幌〜東京〜トロント〜ロス〜京都と移動しながら訳し続けて来たらしい。
 物語はケネディ暗殺の報で始まるベトナム戦争を描くポストモダン戦争小説。ポストモダンの所以は戦闘や性や愚行を描く筆致が正悪や倫理を超えた戦争の空しさを付きつけてくるから。
 CIAのエージェント、その伯父の元大佐、南ベトナムの兵士、神父、暗殺者が入り乱れて展開する、ポップなぶっ飛んだ描写と背後に流れる強烈な作家魂(と呼んでいいのだろうか)が面白い。