立っている木

 今度は吉原幸子です。この室生犀星詩人賞を受賞した1965年の『幼年連祷』に入っている「無題」が時々心に浮かんできます。
 吉原は三陽商会の創業者の妹で、幼い頃から萩原朔太郎北原白秋の詩に親しんでいたらしい。東大仏文科卒業後、劇団四季に入団。アヌイ作の『愛の條件 オルフェとユリディス』(なんと音楽が武満徹)で主役を務めた。高校時代の国語教師だった那珂太郎を通じて草野心平を紹介され、歴程同人となる。1974年には『オンディーヌ』、『昼顔』で高見順賞受賞。黒澤明の助監督のちにプロデュサーとなった松江陽一と一時期結婚。
 静かな喪失と純粋さの表出とでもいうのだろうか。助詞なし、体言止めの歯切れのよさと、葛藤の末に何かを諦めたような、思い切らざるをえなかったような、悲しさが微かな明るさを背景に描かれる。

 風 吹いてゐる/木 立ってゐる/ああ こんなよる 立ってゐるのね 木
 風 吹いてゐる/木 立ってゐる/音がする