帰郷

 会田綱雄という僕の両親とほぼ同年代の詩人がいました。戦後「歴呈」の同人となり、高村光太郎賞などを受賞した人です。中国に従軍した時の体験をもとにした「伝説」という詩で有名ですが、僕は「帰郷」が好きで、平易な言葉遣いの詩なので英語に訳してみたりしていました。

 ぼくはやっとかえってきた/あれはてたふるさとに/かえってきた/
 焼けうせたぼくの家のあたりには/麦がのびてる/その麦は/灰をたべたのだ
 そこにさいごのうんこをして/ぬけがらみたいに/ぼくはたおれた
 ぼろ靴は/犬がくわえていくだろう/ぼくは/ぼろぼろにくずれていくだろう
 麦は/こんどはぼくをたべるだろう/みのった麦は/粉にひきたまえ

 どうしてこの詩が好きか自問してみますが、滅びが明るく描かれているのと転生の希望が語られているからだろうか。戦場で経験した人間の業みたいなもの対する認識が、ある種の悟りのような、暗くない諦観として表現されているからだろうか。