アリス・マンローの面白さ

 アリス・マンローの2001年の短編集のタイトルはHateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriageです。
 2006年に出た翻訳は『イラクサ』。中にNettle(イラクサ)という短編もあります。これも悪くない。映画にも使えそう。
 で、タイトル作のHateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriageは「恋占い」とされています。原題は「愛してる、愛してない」と似たような子供の、もしくは女の子の遊びから来ているらしい。
 読み直してみると、30前後の美しくも裕福でもない女性が列車で家具を地方に郵送し、めったに買う事のない新調の洋服を買う場面から始まる物語が何かミステリーの様に先を知りたくなる。実際には展開やラストも知っていても読ませるドライブがある。
 ホートン&ミルフィンの『ベスト・アメリカン・ショート・ストーリー』は翻訳する短編を探すときに買ったのも含めて10数冊あるが、2001年のはない。アマゾンで調べると、『イラクサ』からは「ポスト&ビーム」が選ばれている。これも読まなくては。
 そして『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』として映画化された「熊が山を越えて来た」。タイトルはアメリカのポピュラー・チューンから来ているらしい。
 日本映画の『明日の記憶』と同様のパートナーがアルツハイマーをやむ。ここでは夫グラントが病気の妻フィオナをやむを得ず病院(施設)に入れるが、彼女はそこで患者の男性を好きになる。しかし男の妻が事態を心配して退院させると、フィオナはその男性の事を忘れてしまう。
 それでもグラントにとってはフィオナは愛おしい。
 パートナーが自分の事を忘れても、それでも愛し続ける事ができるのだろうか。記憶を失くした側からすれば、この親切な人は誰なのだろう。自分が記憶を喪失した事を認識していれば、覚えていないけれどもしかして自分の妻なのだろうか。随分と親切だな、綺麗な人だな、なんて思うのだろうか。
 いろいろと考えさせられる、切ない物語だ。しかしカナダの大学で2人の女性教員はあまり好みでないと言っていた。どうも自国の作家を敬遠する向きもあるようだ。