都市を切り撮る

 画家に比べると写真家の方が都市を被写体とする作品が多いようだ。不況期に活躍したウォーカー・エヴァンスの『アメリカン・フォトグラフス』は同時代のへミングウェイやエズラ・パウンドの名前をあげて文学的抑制と的確さと複雑さを併せ持つ、現代詩にも似たアンサンブルとコラージュで都市をシニカルに切り撮った。代表的な作品としては、農民や労働者の肖像、田舎や小都市の家屋など。
 ここに挙げるのは、「お急ぎください、時間です。」(Hurry up please, it's time.)というキャプションを持つCity Lunch Counter(1929)である。エリオットの『荒地』からの一節を取ったこの作品は、都市の喧騒と慌ただしさを皮肉にそして幾許かの優しさを持って都市風景を写し取っている。そこに垣間見えるそこはかとないユーモラスなタッチには、現代都市の持つ機能優先の非人間性への批判的な視線と、そこに生きざるえない都市生活者への受容の眼差しが共存しているように見える。