『持つと持たぬと』の準備

 ヘミングウェイの発表を聞くための予習。それが自分の講義にも関連して面白いです。
 『持つと持たぬと』は1934年の作品で、舞台はフロリダのキー・ウエスト。自分の船を持つハリー・モーガンは釣りをする金持ちのために2週間も船を出しますが、その料金を踏み倒された事が転落のきっかけになる。
 冒頭アクション映画のような銃撃戦が。実は酒と銃撃シーンが多い。描写も映画の影響を受けているような気が。
 金に困って密輸に手を染め、撃たれて片腕と船も失ってしまいます。
 押収された自分の船を盗んで取り戻したけれど、銀行強盗をした革命家のグループに船ごと拉致され乗り組み員を殺されたハリーは、4人を銃で殺して、自分も撃たれてしまい。
 コンクという巻貝を意味する言葉が地元の貧乏人(持たざる者)として使われ、その代表としてのハリーは同時に自分の船と家族への責任感を「持つ者」でもあります。
 ですから「持つと持たぬと」は単純に金持ち/資本家対貧乏人/労働者ではなく、物質的なものと精神的なもの対立、そして持つ者が持たざる者に転落する様子や、持っているように見える者が実は持たざる者である事が明らかになるなど、複雑という錯綜している。
 最後にハリーが「個人では何もできない」というのが、非政治的なヘミングウエーが宗旨替えをしたようにも受け取られているようです。何か物語の流れと会わないような気がします。
 参考文献として宮本陽一郎さんの「ヘミングウェイの南西共和国」(『ヘミングウェイの文学』所収)が面白く参考になりました。