エルロイの復習

「都市小説としてエルロイの『LA4部作』を読む」として『北海道アメリカ文学』に書いたのは、2000年だった。
「はじめに」を再録すると。
 ジェームズ・エルロイ(James Ellroy)はL.A.Quartet(『LA4部作』)において、1947年から59年までのロサンゼルスの犯罪とその捜査を描く事で,冷戦下のアメリカ像をも提示するという離れ業を演じた。すなわち第1作The Black Dahlia (『ブラック・ダリア』1987)では伝説の猟奇殺人事件を追いつつ自己の過去の傷により破滅していく警官と、捜査の過程で自己の過去を精算し再生していく警官を描き、第2作The Big Nowhere(『ビッグ・ノーウェア』1988)では3人の警官、検察官、退職した悪徳警官が「赤狩り」の嵐に翻弄され破滅していく、 第3作L.A. Confidential (『LAコンフィデンシャル』1990)ではやはり2人の警察官が犯罪を捜査しつつ野心と妄執にからめとられそうになりながら、あやうく破滅を逃れる。4部作の掉尾を飾るWhite Jazz(『ホワイト・ジャズ』1992)で,エルロイは緻密に構成されたプロットを背景に,前3作を上回る圧倒的な暴力と物語を破壊しそうになるスピードで1950年代後半を駆け抜ける。
 さらに『LA4部作』後のUnderworld USA Trilogy(『アンダーワールドUSA3部作』)では60年代アメリカの裏面史を描く事を目論み、ケネディ政権を題材にしたその第1作American Tabloid (『アメリカン・タブロイド』1995)は1997年度Time誌の年間ベスト・ブックに輝いた。