漱石『こころ』再読

NHK BSプレミアムで「漱石『こころ』100年の秘密」を見ました。これ実は2年前の2014年、朝日新聞に連載小説として掲載されてから100年経った「こころ」の新しい魅力を発掘する番組のようでした。番組案内では教科書でもおなじみの「国民文学」だが、し細に読むと実は謎だらけの作品を小森陽一関川夏央などが発言していて面白かったです。
で、高校か大学の時に読んだと微かに記憶する『こころ』を読んでみました。手元にありそうでしたが、見つからず岩波文庫で買って。感想は思ったよりも難しい。これを高校生に読ませても無理でしょう。でも面白い。270頁のうち「上 先生と私」が90頁36章、「中 両親と私」が45頁18章、そして最後の「下 先生と遺書」が135頁56章で、ほぼ面白く読んだが、半分を占める「先生と遺書」が物語のなぞを解く中心なのでしょう。しかし先生が進路の問題で悩む親友Kを心配して自分の下宿に連れてきたのですが、下宿の娘と親しくなり、先生が嫉妬をする場面は少し読むのが辛くなった。内容・描写の問題なのか、読み手として先を急ぎ過ぎるのか。
そして最後は先生の遺書で終わってしまいます。ここは遺書を受け取った私の反応について知りたいと思うのが読者の反応だと思います。しかも危篤の父親を措いて、東京の先生の元に急いだ私なのですから。
僕は『こころ』を読んで、明治時代のエリートの若者の意識、勉学、覚悟、そして無為の生活について、『三四郎』や『それから』などでも書かれていますがあらためて興味深く読みました。漢籍や日本の古典にもう造詣が深く、そして初めて国費留学生としてイギリスに留学した日本の英文学の大先輩は、明治の欧米化に懸念と不安を表明した数少ない知識人でした。関連して漱石の小説の主人公たちは、漱石に近い知的エリートでありながら、欧米化・富国強兵にまい進する政治家や実業家にはっきりとまたアイロニカルに反対の立場をとっています。
それと関連するかどうか不明ですが、家・家督・相続などが大きな問題として浮かび上がってくるのでした。「先生」は一人っ子で両親亡きあと叔父に財産を横領される。「私」は父の危篤で、成功しているような兄に学歴に相応しい進路を進められる。「K」はお寺の実家から医者に養子にやられる。それぞれ家と相続の問題で悩むわけです。やはりそれも近代化にまい進する明治国家を支える家制度の維持とそれに対する反発なのでしょうか。
 『こころ』は深くて面白い。