ヒップホップと引用

Stevie Wonder(1950年生まれ)が1976年出した18枚目のアルバムSongs in the Key of Life にはいい曲がありますが、Pastime Paradiseもその一つです。ただ「楽園の彼方へ」と邦題の付けられた原題の形容詞と名詞の関係がずっと気になっていました。つまり「娯楽・気晴らし・慰み」としてのpastimeと、「死の後の高潔な魂の住処 」であり「至福と喜びと平和に満ちた場所」であるparadiseとが不釣合いで違和感があるからでした。Oxymoron(矛盾語法・撞着語法)のように思えますが。
 訳を考える時にネット上の訳詩をよく使いますが、そこに出てくる「慰めの天国」もよく分からない。注でもつけて「本当の天国ではなく、安易に楽しく暮らせる場所という意味」とでもしなくては。しかし後半部に”future paradise”とあるので対比されています。そして両方ともThey’ve been spending most their lives(Living in a pastime paradise)/Living in a future paradiseとなっているので、このTheyもまた誰を指すのか気になります。それはTell me who of them will come to beHow many of them are you and meで明らかになる。あるネットの見解ではTheyが白人だとしていました、たぶんそうではなくて、自分やあなたも彼らのように安逸な場所で人生を浪費したり、未来の天国を夢見てばかりいる、という批判的なメッセージでしょう。
 この曲はシングル・カットされなかったらしいですが、1995年『デンジャラス・マインド』で使われたクーリオというラッパーの「ギャングスタズ・パラダイス」がビルボードで1位になり、グラミー賞も受賞したようです。クーリオとスティービーのデュオも聞きましたが、やはりスティービーの歌がいいです。この人は中音から高音への伸びと、節回しが自在なのが特徴です。メロディーのある音から音への経過音というのか、たぶん楽譜に出てこない、歌手や演奏者の独自の解釈が出てくる部分がすごいんですね。で、「ギャングスタズ・パラダイス」のカバーですごいのは、オランダのオーディション形式の歌番組に出てきた黒人女性歌手の歌唱。Imelda Wallerleiと言う名ですが、キャリを知りたくなりました。
https://www.youtube.com/watch?v=MFNWhIwc1kM