赤狩りとグローブ座

シェークスピアの『テンペスト』について少し書いたので、2回のロンドン勤務で彼の地には詳しい畏友W君から別件のメールに付して、復興されたグローブ座で2006年に『テンペスト』を観たと書いていました。
 さてグローブ座の復興にはアメリカの俳優と赤狩りが関係しています。それはアメリカ生まれの俳優サム・ワナメーカーが1970年グローブ座再興のために基金を設立したからです。そして1997年には、サウス・バンクのグローブ座跡地からほど近い所にShakespeare's Globeとして復元されました。
 サム・ワナメーカーは1919年イリノイに生まれ、第2次大戦中に陸軍にいた後、1950年代初めにイギリスで撮影していた時に、下院非米活動委員会(HUAC)のブラック・リストに載せられます。その事を知ったワナメーカーはアメリカへは帰らないで、イギリスで主として演劇界で活動しました。リバプールストラトフォード・アポン・エイボン、そしてロンドンでプロデューサーや監督を務めた。もしかしたら英米の演劇の専門家の人の方が詳しいかも。また俳優だけではなく、5本ほど映画を監督しています。
 出演した映画としては同様に赤狩りアメリカを追われたジョゼフ・ロージー監督の『コンクリート・ジャングル』(1960)、『寒い国から帰ったスパイ』(1965)、そして『プライベート・ベンジャミン』(1980)、『スーパーマン4/最強の敵』(1986)、『赤ちゃんはトップレディがお好き』(1987)などがあります。しかし残念ながらサム・ワナメーカーは1997年のグローブ座の完成を見ることなく、1993年に74才で亡くなっています。アメリカ文化の授業でも使った事のある『真実の瞬間』(1991年)が印象的でした。というのはこの映画が赤狩りで仕事を失う監督(ロバート・デニーロ)を主人公としているからで、ワナメーカーは監督の弁護士を演じていました。