作家、音楽、言葉

『オーデュボンの祈り』を読み終わったのですが、面白いのだけど感想を書きずらい。僕がミステリーを好み、SFやファンタジーを遠ざけてきた理由は、ユートピアディストピアなどの哲学的・倫理的な世界観、シュールな設定などが苦手だからです。新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した『オーデュボンの祈り』もどうもシュールなミステリーなんですね。それで感想をまとめずらい。でも面白かったので、この伊坂幸太郎の他の作品を資料的に読んで、『オーデュボンの祈り』について考えようと目論みました。
 『グラスホッパー』、『マリアビートル』といった「殺し屋小説」、寓話的犯罪小説『ラッシュライフ』 、『アヒルと鴨のコインロッカー』と『砂漠』は青春小説、『重力ピエロ』、『オー!ファーザー』、『PK』を読み終えました。
 その中の『重力ピエロ』で重要な役割を果たすのでローランド・カークです。この作家の作品は、小説・映画・音楽がかなり重要な役割を果たしています。仙台の大学仲間の冒険を描く『砂漠』では、パンクのラモーンズが仲間の交流と理解を作る重要な絆の役割を果たしていました。そして『重力ピエロ』では、主人公兄弟の入院中の父親が息子(弟の方)が病室に持ってきたローランド・カークをかけて、関心を持たなかった兄の方が感動する場面。
 兄は盲目で複数の楽器を駆使するジャズ演奏家に何かしら偏見を持っています。ま、これは普通の反応で、僕らは何も情報もなく素の状況で何かを受容する事の方が少ない。いつも何かを聞いたり、見たり、読んだりする時に、前もって情報を持っている事の方が多い。特に僕は情報で武装して対象に向かう事が多いタイプです。先入観でガチガチになって、恐る恐る近づいて行く小心者なんですね。
 で偏見を持っていた兄がこのローランド・カークの”Volunteered Slavery”(何という皮肉なタイトル)を聞いて、感動し、父親や弟と共感する場面が、やはり優れた作家による音楽の説明となっていてうれしい。しかもタイトルの「重力ピエロ」の解説にもなってくる重要な場面での、この音楽の使い方がとてもいいです。
 動画は1972年スイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルのものです。いい演奏ですが、やはり異形のアーティストの祝祭性という言葉も浮かんできます。
https://www.youtube.com/watch?v=-6ryVryFnEY