ミニマルな音楽

 僕はある時ボサノバってミニマルな音楽だと思うようになりました。例えばジョビンのギターを爪弾いて呟くような歌い方は、サンバ的なパッションやオペラ的な歌唱とは対照的です。本家ミニマル・ミュージックの代表的な音楽家フィリップ・グラスがいます。名前は知っていましたが、『めぐりあう時間たち』の音楽が気に入ってサウンド・トラックを買ってしまいました。映画の冒頭に3人の女性主人公の一人ヴァージニア・ウルフが入水自殺をはかり川に入る時にかかるテーマが、後の重要な場面で繰り返し出てきます。
このミニマル・ミュージックと映画音楽は短いテーマを変奏して繰り返す点という共通点があるような気がします。映画音楽ではコアになるテーマがあって、それを場面に合わせて変奏しつつ繰り返す。ミニマル・ミュージックでも一つのテーマ=メロディを繰り返して、それがある種のリズムを作り上げるのですが、それを単調・退屈と感じる人もいます。この微妙な差異を聞き分けて、それが次第に正にミニマルなグルーヴを感じる事ができる聴き手の能力も必要な種類の音楽かも知れません。
でも映画音楽の方は、映像やストーリーの展開が、ミニマルな繰り返しに重層的な時間的な意味を与えてくれます。ある場面でのフレーズの繰り返しは、それ以前の場面と音の記憶に追加的に再現され、微妙な差異が意味の重層性に転化するような気がします。それと繰り返すテーマというのは耳に残って、音の記憶が映画の記憶と相乗的な効果を持つのでしょうね。