モラエスとモライス

『弧愁(サウダーデ)』(文藝春秋、2112)でモラエスという日本文化を伝えたポルトガル人について知りました。新田次郎の未完の作品を息子の藤原正彦が書き継いで30年越しに完成させた『弧愁(サウダーデ)』(文藝春秋、2112)がその本ですが、日清・日露戦争の時代にポルトガルの元海軍中佐で駐日領事だったヴェンセスラオ・ジョゼ・デ・ソーザ・モラエス(1854-1929)の評伝です。ヨネという芸者を愛し、彼女が亡くなった後はその郷里徳島に移り住んで生涯を終えたモラエスは明治・大正期の日本の美しさや美風を欧米に紹介した人物のようです。ラフカディオ・ハーンとも似ていて、交流もありそう。タイトルの「サウダーデ」は二度と会えない人への切ない思い、二度と戻らない故郷への郷愁を表現したものです。
 さてこの「モラエス」の事を「モライス」と勘違いしたのは、名前の類似とこの本のタイトルの一部「サウダーデ」によるものです。「モラエス」はMoraes、「モライス」はMoraesで同じで名字で表記がちょっとだけ違う。「モライス」の方はヴィニシウス・ヂ・モライス(1913- 1980年)。アントニオ・カルロス・ジョビンの曲に詩を付けたボサノバの創始者のひとりです。ブラジルの詩人・作家ですが、外交官であった点も僕の記憶にあって、日本のゆかりの「モラエス」と勘違いしました。あのボサノバの重要人物が日本と強いつながりがあったと関心を持ちましたが、時代も異なり国籍も。ただブラジルは南米で唯一ポルトガル語を話す国で、その言葉の特徴はミニマムでフラットなボサノバにも影響を与えていると思います。そしてモライスとジョビンの共作 である「イパネマの娘」や「おいしい水」などのボサノバの名曲には、このブログのタイトルにもつかった「想いあふれて」 (Chega de Saudade )もあるので、モラエスの伝記のサブタイトル「サウダーデ」に反応してしまいました。