音楽と言語

久しぶりに山下洋輔さんの対談本『音楽㊙講座』(新潮文庫、2014年5月)を読んで、すごーく面白かった。前項の武田鉄矢とはまた一ランク上の言語能力による対談ジャム・セッションです。ジャズの演奏に一時代を築き、また文章においても面白くてためになる本をたくさん書いている人と比べられては、誰も適わない。
僕は音楽家が音楽について語る本が好きですが、演奏能力と言語能力を同じレベルで持っている人はそういない。ジャズでは、菊池成孔(きくちなるよし)の本も結構興味深いが、面白いのは山下洋輔さんだ。特に対談では異なる世界に属しながら、相手のジャンルに関心を持っているという前提が、両方の世界を広めている。つまり相手が説明をすると聴き手がそれを自分流の受け止め方をして、それがまた説明する側の理解をも広げると言う相乗効果が、読み手にも伝わる。双方が一つのテーマをもとに、アドリブを繰り出しながら、時に反対方向に逸脱し、時にユニゾンで同調しながら、またテーマに戻っていく知的刺激はジャズのインタープレイのようでもある。
 特に1959年生まれの茂木さんは、オーボエをやりながら、新宿のピットインでジャズを聴き、筒井康隆を読み、タモリを見ていたと言う、山下洋輔ワールドの人で、ドイツでクラシックの修業をして指揮者もやり、山下さんと音楽でも共演している。と言っても対談で師匠の山下さんの手中にとどまる訳でなく、ベルリンの壁崩壊前後のドイツの音楽状況なども面白く語ってくれる。この話術と言うのは、状況にどっぷり浸りつつ、そこから引いた視点も同時に持つ事から生まれてくる。
一人の本でも、十分面白いが対談ってジャム・セッションなので、2倍以上に面白くなる可能性がある。それと音楽の専門家が誰でもそういう訳ではないけれど、自分の専門分野の技術の他に、客観的に分析する能力があり、現場と理論の両方に精通しているのが読んで面白い理由だと思います。具体(=現場)と抽象(=理論)と言う事もできるだろうか。二宮由希子さんのカバー装画もかわいい。