レナードとヴィジランティズム

マジェスティック』に主演したブロンソンからの連想ではありませんが、レナードの作品に通底する雰囲気に、『狼よさらば』(Death Wish、1974))で問題となったアメリカの自警主義(Vigilantism)があるような気がします。『マジェスティック』も最後は素人の農場主がギャングの嫌がらせに立ち向かう。『五万二千ドルの罠』では不倫を強迫された主人公が一人で反撃を開始する。『野獣の街』では刑事が法律を無視して犯罪者を射殺する。この社会の司法に頼らない/無視するスタンスが、銃所持を許可する社会と支え合っていると言うか。そこでは被害者は、司法の担い手と犯罪者の両方に近づいた存在となる。
レナードのもう一つの特徴は、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞の『ラブラバ』(LaBrava、1983)と『ゲット・ショーティ』(Get Shorty,1990 )に見られるハリウッド・犯罪小説のジャンルだろうか。『ゲット・ショーティ』の方はジョン・トラボルタ主演で映画化され、続編もあり有名ですが、『ラブラバ』の方。こちらは元映画スターが副主人公となるので、実在のスター、少し虚構化されたスター、そして映画への言及が楽しそうに散りばめられています。
そしてレナードの3つ目の特徴は西部小説も書くという事。というよりもスタートは28歳の時に書いた短編Three-Ten to Yuma (1953年)で、これは『決断の3時10分』(1957)で映画化された。僕はリメークと同時に見たのですが、グレン・フォードとヴァン・へフリンが主演、珍しく悪役のグレン・フォードが自分を護送する農場主のへフリンに同情する、少しオフビートなウエスタンでした。リメークの『3時10分、決断のとき』(2007)ではラッセル・クロウクリスチャン・ベールがそれぞれ無法者と農場主を演じた。非情だけれど教養もある無法者という二面性を持つ悪人は、今では普通かもしれないけれど、60年前では少し文学的だったのかもしれない。その辺りが、エルモア・レナードの軽妙な会話と善悪の区別があいまいな「レナード・タッチ」の一部だと思います。