ベトナム帰還兵と映画

1973年にベトナム戦争が終わって、少しずつベトナム戦争や帰還兵を主人公にする映画が登場して来ます。しかし
ディア・ハンター』(1978年)、『地獄の黙示録』(1979年)、『プラトーン』(1986年)、『7月4日に生まれて』(1989年)のようなベトナム戦争映画の代表格のように戦争をダイレクトに描くのではなくて、主人公が実は帰還兵である事がさりげなく描かれている映画もあります。またベトナムでの経験が精神的な問題となっている事が重要な要素となっている映画があります。
 その代表が『タクシードライバー』(1976年)。主人公のトラビスは不眠症のため夜間のタクシーの運転手になりますが、彼の銃器への偏執性はともかく操作能力は軍隊にいた事を暗示していました。若き日のトミー・リー・ジョンーズが副主人公で出演している『ローリング・サンダー』(1977年)、『帰郷』(1978年)、そしてスタローンのヒット・シリーズとなった第1作目の『ランボー』( 1982年)は、帰還兵がひっそりと生きようとしているのに対して、社会がそれを許さない状況が引き金となって、元兵士の暴力が噴出してくるという物語になっています。
帰還兵の社会不適応がPTSD研究のきっかけと言われていますが、それが暴力として外部に出現しないで、ノイローゼのように自己処罰的に沈んでいく物語もまたありました。また『ジェイコブス・ラダー』(1990年)のように戦場の凄惨な悪夢が繰り返し日常に戻った主人公を襲った映画のエンディングは、アンブローズ・ビアスの「アウル・クリーク橋の一事件」のラストを思い出させるものでした。「アウル・クリーク」について知っている人には、一種のネタバレになりますが、薬物によって殺人機械を作り出す軍隊(=国家)への批判にもなっています。いずれにしても戦場での経験が簡単に自分の中で解消できないで悩むのは、それ自体当たり前のような気がします。つまり戦場での経験をないものとして普通に日常に復帰できる方がおかしい。ではどのように自然に社会に適応していく事ができるのか、精神療法的に治療していく方法があればいいのでしょうが。