カインとアベルの物語

ランディ・ニューマンの”God’s Song”を来週取り上げる予定です。といっても学生が自分で選んだ曲なのですが、1学期に使った”Sail Away” (1972年、Sail Away)で興味を持ったような。この「神の歌」もまたニューマンの「セール・アウェー」や、代表作”Short People”(1977年、Little Criminals所収)のように、シニカルでブラックな歌詞です。
 「ショート・ピープル」は背の低い人を侮辱した曲として、アメリカ各地のラジオ局で放送禁止になったのですが、ちょうど日米経済摩擦の時期だったので、日本人の事を皮肉っていると言う説もありました。しかし彼の曲は偏見を持った語り手の視点から歌っているんですね。もちろん作者=シンガー ≠ 語り手なのですが、聞き手は、偏見を持った語り手(歌い手)の事を誤解して、前述のような反応をする訳です。しかし、少しレベルの上の聞き手だと、自分もそのような偏見を持っていると悟る?普通のプロテスト・ソングのようにダイレクトに社会や差別や偏見を攻撃する場合は、聞き手はダイレクトに同意できる。ニューマンの場合は、攻撃されるような人の視点で物語り、聞き手はそれはないと否定する。そしてその次に自分はどうかなと掘り下げて考えるきっかけを与えてくれる。
 さて、「神の歌」はカインとアベルの物語が冒頭に出てくる、神の視点から人間の愚かさをシニカルに批判する歌です。このカインとアベルの物語については、何故、神はカインの供物は無視し、アベルの供物に目を留めたか、という神の意図の解釈がずいぶんと議論になっています。長子が犠牲となる物語の系譜や神の試練を誤解しているなど。「ヨブ記」のように一見無意味な神の試練を、無条件で受け入れる、絶対的な信仰を説いているとも。
 このカインとアベルの物語のスプリングスティーン版が"Adam Raised A Cain”。彼の”Born in the USA”や”Galveston bay”など取り上げてはいるけれど、特にその歌唱が好きとは言えないが、この曲はいいです。
http://www.youtube.com/watch?v=UA7v0zknMCo