モンクのピアニズム

 イーストウッドが製作しシャーロット・ズウェリンという監督によるセロニアス・モンクの90分ドキュメンタリーThelonious Monk - Straight No Chaser(1988)がyoutubeで見られます。http://www.youtube.com/watch?v=D9udeWOjjls
 今モンクについての論文を読んでいるのですが、参考にCDを聞きいています。さらに映像も探してみていますが、モンクの指使い、足の動き、その有名なダンスなど演奏風景が面白い。演奏しながら、自分のピアノ・パートが終わり、他のプレイヤーの演奏の時に立って踊るような動きが有名でした。でもそれは、自伝を読むと少し病気のような部分もありそう。アーティストには奇人・変人が少なからずいて、ジャズマンにもいます。確かにドラッグの影響もありますが、モンクの弟分のバッド・パウエルなど(白人)警察官に殴られてその後遺症でおかしくなった。そのパウエルの様子が大江健三郎の初期のエッセイに描かれています。またジャコ・パストリアスという天才ベーシストは、酔いどれてクラブの用心棒に殴られて死ぬと言う悲惨な最期を遂げています。
 さてモンクはその演奏と作曲において、かなり個性的というか独自の存在でした。それはモンク独特のタイム感覚と言うか、弾きながら考えている。考えながら弾いているので、指使いは横にホリゾンタルではなくヴァーティカル、縦に弾く。結果として音数の少ない、訥弁スタイルになるのだと思う。それがソロ・ピアノではよく分かる。聞き手として一緒に次の音を考えるような緊張感と、次の音に辿りついたほっとした感覚を共有できる(ような気がする)。そしてピアノ・トリオやカルテットでは、このモンク独特の間の感覚を理解しないと共演できない。このタイム感覚は演奏ほど言葉で説明できないけれど、作曲にも表れていると思う。しかし素人の耳には、モンクのオリジナルの曲よりは、スタンダードなどの演奏の方がその個性がよく分かる。『プレイズ・デューク・エリントン』における「スイングがなければ意味がない」の演奏など、スライド・ピアノの伝統を生かしつつ、唯一無比のしかもチャーミングな演奏で、孤立しながら共感を誘う。