黒人探偵と不動産

 僕と同い年生まれのWalter Mosleyという作家がいます。彼の代表作であるDevil in Blue Dressがデンゼル・ワシントン主演で『青いドレスの女』(1995年)として映画化され、クリントンが大統領の時(1993〜2001)に好きな作家としてウォルター・モズレイを挙げたけれど、一般的にはそれ程知られていないと思います。
 ユダヤ人の母親と黒人の父親を持つモズレイは1990年にEasy Rawlingsを主人公とする前述のDevil in Blue Dressを発表します。1948年のロスを舞台に失業中のイージーが人探しを依頼され、持ち家のローンを払うために嫌々その仕事を引き受けます。その小さな家に対するイージーの感情がけっこう詳しく描写され、当時の貧しい黒人にとって一戸建ての家が持つ意味が面白く感じられる。まだ差別の蔓延る戦後のアメリカで黒人が唯一誇り得る所有物としての「家」の意味。イージーは大戦に従軍した28歳の青年なので、作者モズレイの父親の世代になる。
 さて2作目の『赤い罠』(Red Death, 1991)は、前作で得た1万ドルを元手に3軒のアパートの所有者として登場します。しかし黒人が不動産所有者となると問題があるのか、自分はアパートの雑役夫として、管理や家賃の徴収は別の男に任せています。時代は1950年代前半「赤狩り」の頃で、FBIにユダヤ人の組合活動家の動向を探るように命じられる。そのきっかけも不動産の所有を隠しての脱税を追及され、それを見逃してもらう条件でFBIの捜査を手伝うのですから、この黒人探偵と不動産は物語でも重要なファクターです。実は3作目以降もそうなのですが、その意味について検討する余裕のないまま時間が過ぎてしまったので、とりあえずここで掲載してしまう事に。
 もう一つ実はこのイージー・ローリング・シリーズは6作翻訳で再読して、黒人差別の実態の凄まじさや主人公の葛藤や彷徨が興味深い点と後味があまりすっきりしない点の両方があって、とても面白いとも面白くないとも言い難い。