キングの筆力

 テーマは「リタ・ヘイワースとショーシャンクの贖い」だが、その前に『恐怖の四季』(Different Seasons、1982年)の紹介です。 4本の中編小説をまとめた『恐怖の四季』は2冊の文庫で翻訳され、『スタンド・バイ・ミー』は秋、冬の2作品を収録。表題作の秋編は原題”The Body”,つまり「死体」を探す4人の少年たちの冒険の旅。映画化はリバー・フェニックスのスター性とリバイバル・ヒットした「スタンド・バイ・ミー」のおかげもあり成功した。もう1篇である冬編の「マンハッタンの奇譚クラブ」はイギリスのゴシック小説のような趣がある。また、短編集の最初に掲載されている14頁ほどのキング自身の自作コメントが楽しいです。4本の中編の内3本が映画化され、2本がヒットしたと言うのは、作品の持つ力を示すものですし、1作1作が濃くて面白い。
 映画化があまりうまくいかなかった「ゴールデン・ボーイ」はナチの戦犯だったかも知れない老人と少年の不思議な交流を描く。そして『ゴールデン・ボーイ』に収録されているのが春編の「刑務所のリタ・ヘイワース」で、原題"Rita Hayworth and Shawshank Redemption"(リタ・ヘイワースとショーシャンクの贖い)、映画化が『ショーシャンクの空に』(The Shawshank Redemption, 1994年)。監督はフランク・ダラボンで、同じキング原作の『グリーンマイル』(The Green Mile、1999年)も監督しています。さて"Redemption"とは、「罪を贖う」という意味の他に債券などの「回収」、「償還」という意味がある。無実の主人公は刑務所で「罪を贖う」必要はなく、逆に最後に失った時間を「回収」、「償還」したというように解釈できる。
ショーシャンク刑務所でよろず調達屋として生きる殺人犯のレッドが語り手です。1948年、アンディー・デュフレーンが妻とその愛人を殺した罪でショーシャンクに入ってくる。無罪を主張するが淡々と刑務所生活を送るアンディは、レッドにリタ・ヘイワースのポスターを依頼する。やがて、アンディは次々と奇跡のような出来事をレッドや囚人仲間に見せてくれる。翻訳1988年(昭和63年)で、最近買ったのが2014年47刷だからベスト&ロング・セラーなのでしょう。原作もKindleで買って並行して読んでいます。
 アンディは小柄な者に動じない若き銀行家で、映画では長身のティム・ロビンス(195cm)が演じる。ロビンスはなかなかいいのだが、実は脱獄の手段が牢屋に穴を掘って下水道を這っていくと言うのが、小柄だからできる設定になっていて、ここが唯一の難と言える。語り手のレッドは、原作ではアイルランド系となっているが、映画ではモーガン・フリーマン。フリーマンも酸いも甘いも知り尽くした、しかし純なところもあって、アンディの信頼を勝ち得るいい役どころです。ホラーは好きではありませんが、キングの書く力の質と量の両方を評価したいと思いますね。