悲劇の歌姫

Youtubeで陽水の「恋の予感」を探している内に、中森明菜のバージョンに出会った。それもかなりの低音で歌っている。その流れでみた「難破船」に参ってしまった。これは1880年代後半のステージ(外での)映像だろうか。
加藤登紀子の作詞・作曲の楽曲もいいが、それを歌う中森明菜の歌唱、カメラでとらえる間奏での表情がいいです。聞くところによるとこの曲を歌う時は必ず?泣くそうですが、それを知らずに見た僕としては、間奏の時に一滴の涙を流すに驚きました。その前後の、カメラを意識するようなそれを無視するような表情、風が作るほつれ髪、カメラの向こうの誰かを探すかのように泳ぐ視線、流れた涙の悲しく美しい横顔を仰角で写すカメラのアングル、そして歌い終わって退場する時に「しまった」とでも言うように軽く自分の頭をコツントする時の笑顔など、単に一つの曲を歌うだけでなく曲を歌う歌手の人生を垣間見せるように、いい意味で演劇的で重層的で多彩です。
 「難破船」は加藤登紀子中森明菜に渡した楽曲でカバーではないようです。でももともと中森明菜のために作った曲ではなく、自分のための曲を中森明菜が気に入って譲って?もらったよう。この歌詞がなかなかいい。破局を認めつつ、それに引きずられる思いを的確に、レトリカルに描いています。それで今度は中森明菜がいろんな曲をカバーした動画を続けてみました。「ホテル・リバーサイド」、「桃色吐息」、「学生街の喫茶店」、「東京砂漠」、「私は風」など、陽水から高橋真梨子、ガロ、前川清カルメン・マキなどどれも悪くないけれど、「踊り子」(村下孝蔵)が気に入りました。
村下孝蔵のオリジナルはけっこうテンポの速い歌い方で恋の破局の予感を歌うのですが、中森明菜はスローで、そのゆっくりとしたテンポを支える低音の伸びが破局の悲劇をじっくりと表現しているのですね。「踊り子」は破局の予感を男子の視点から歌い、「難破船」は振られた女性の戸惑いと悲しみを歌っている。で、やはり「難破船」がいいです。個人的には幸せになってほしいけれど、悲劇を背負う宿命のような、スターの光と影を中森明菜ほど表現し体現している人は他にいない。
http://www.youtube.com/watch?v=DOAjaBkc0Q4