疾走する俳優の肉体

ケビン・ベーコンの『クイックシルバー』(1985)をBSで見ました。ケビン・ベーコンは『ダイナー』(1982)で注目され『フットルース』(1984)でブレイクした俳優で、近年は主役もしますが、強烈な悪役もかなりこなす。
この映画のタイトルは、「クイックシルバー」と言う名のメッセンジャー会社が舞台なのですが、当然のようにQuicksilver Messenger Serviceという60年代の西海岸のロック・バンドの名前をもじったものです。
1964年、フォーク・シンガーとして活動していたディヴィッド・フライバーグが西海岸でポール・カントナーとデュオを組み、デヴィッド・クロスビー、ジェリー・ガルシアらと演奏を繰り返していた。フォーク・シーンは下火となり、クロスビーはザ・バーズ、ガルシアはグレイトフル・デッドを結成する。
1965年、フライバーグはグループの結成を試みるが、マリファナの所持で収監され、出所してグループを始める。
名前の由来についてはメンバーの星座であるふたご座とおとめ座の守護星水星(マーキュリー)から。マーキュリーの別名はクイックシルバー(水銀)。水銀は古来ギリシャ神話では神の使い(the messenger of the Gods)とされている。という事で、Quicksilver Messenger Service。serviceは商売のサービスだけれど、元々は神に仕える「奉仕」の意味です。
映画の方は、やり手の若手株仲買人のジャック(ベーコン)は投機で両親の資産も含む全財産を失い、失意の中で町をさまよう。その彼の眼に疾走する自転車が飛び込んでくる。やり直しを計るべくメッセンジャー会社“クイックシルバー”に入社したジャックは、株式市場とは異なる気のいい仲間と交流しながら、自転車で走り回る。
 映画ははっきり言って大した事はありませんが、若き日のケビン・ベーコンがベレーをかぶり、メッセージを背中のバッグに載せて自転車で疾走する爽快感に尽きるでしょう。会社の仲間が麻薬のような危ない荷物を運び、消されてしまったり、ホットドッグの屋台を始めようと苦労したりと言う物語は他の役者の地味さも含めてあまり魅力的とは言えない。『クイックシルバー』では、27歳のベーコンが『フットルース』で見せた踊りの才能を、ここでは自転車で疾走する運動能力として発揮する。ひたすら走るケビン君、これはアクション映画の一種かなとも。