『ペーパーボーイ 真夏の引力』の原作

やっとPete Dexter(1943-)のPaperboy(1995)に辿りついた。この作品は2009年のPreciousを製作・監督したリー・ダニエルズにより『ペーパーボーイ 真夏の引力』として映画化された。デクスターが監督と共同脚本を担当しているが、この黒人でゲイであるダニエルズが監督した意味は後述する。
 原作は一般のマイアミのイメージとは異なるスワンプが広がる南部の一地方が舞台。『ペーパーボーイ』の語り手ジャック・ジェイムズの父親ウィリアム・ジェイムズモートン・カウンティ・トリビューンの社主・編集長。語り手の兄ウォード・ジェイムズはマイアミ・タイムズの記者。ジャックは大学を中退して父の新聞社の配達トラックを運転している。まず、物語は南部の地方紙の経営者一家をめぐる父親と息子たち、兄と弟の愛情と確執が中心となる。
 もう一つはマイアミ・タイムズにおけるウォードとパートナーのエイクマンのジャーナリストとしての姿勢。ウォードは自ら現場で取材をして記事を書こうとするのに対して、エイクマンは伝統的なタイプの記者が集めてきた資料に形と意味を与える非伝統的な記者と自分をとらえている。この対比と対立は、地元の殺人事件を再調査するこの物語の主要な冤罪事件(実は・・・)で描かれて行く。
 ウォードは弟と酒場で飲んでいる時にガンを付けた付けないでもめた水兵たちに、もどったホテルで重傷を負わされる。ここでは明示されないけれど、ウォードがゲイであり、酒場でそれとなく誘った事が暗示される。映画版で原作よりも重要になる、殺人犯のフィアンセ(ニコール・キッドマン演じるシャーロット・プレス)にジャックが惹かれ、エイクマンは一時関係を持つけれど、ウォードが一切性的な関心を彼女に持っていない点から、前述の事件もふくめて、ウォードがゲイであるように設定されている。このゲイの持つ意味についてはここでは詳述できないので先に進みます。しかしリー・ダニエルズ監督が黒人男性でゲイである事がこの作品を映画化した事と関係していて、ユダヤ人青年エイクマンが黒人となっている点も同様だと推測する。
 冤罪を明らかにしたウォードとエイクマンはピューリッアー賞を受賞するが、その後別な記者によって証人のでっち上げが暴露され、ウォードは自殺と思われる失踪をとげる。物語の最初でもジャックによって描かれるように父ウィリアムは社を引き継がせようと思っていた息子ウォードの事を一切話題にしようともしなくなる。一時期マイアミ・タイムズに勤めたジャックは、父の病気を機にモート・カウンティに戻り、トリビューンで働くようになる。