007 内なる敵

 Skyfallをちゃんと見ました。ちゃんとと言うのはBSで断片的に見ていたからで、日曜日はほぼ全編通して鑑賞。やはりそれなりに面白い。過去の007へのオマージュ的目配りなども含めて。冒頭から登場する若い黒人女性の現場工作員が最後にデスクワークに転じてMの秘書のマネ―ペニー嬢として登場。愛車アストン・マーティンアタッシュケースに仕掛ける様々なガジェットを発明するQは老人から若者へ代替わりします。
 さて重要なのは007というか英国情報部を脅かす敵の造形です。これが難しい。『ノー・カントリー』(2007)で強い印象を残した殺し屋役のハビエル・バルデムが元MI6エージェントのシルヴァはを演じる。彼は香港支局にいた時に中国当局に捕らわれ、MI6に見捨てられた事で当時の上司Mを深く恨んでいた。彼がMI6の工作員の名前をネット上に公開したり、本部を爆破する。
 金髪に染めたバルデムはそれなりに不気味であるけれど、でも組織に恨みを持つ個人と言うところが007の敵としては迫力不足にみえます。しかしMが女性(ジュディ・デンチ)という事で、シルヴァは女性の上司に「マミー」という実際のセリフも含めて母親を投影しているような作劇になっています。つまり自分を見捨てた母親を恨み、もう一人の息子であるジェームズ・ボンドに嫉妬し悪意を抱く。最後の方で、Mを捕まえたシルヴァは彼女と心中自殺をしようとします。そのシルヴァの背中にナイフを突き立てたボンドはMを助けますが、すでに負傷していたMはボンドの腕の中で息を引き取ります。これも不肖の息子の責任を取ると言うか殉ずるような要素もありそう。
 さらに『アメリカン・ビューティ』や『レボリューショナリー・ロード』で家族の問題を扱ってきたイギリス演劇界出身のサム・メンデス監督はボンドの生家(スコットランドスカイフォール)を最後の舞台として、少年時代のボンドを知っている猟場管理人も登場させることで身寄りのないスパイの個人史をあぶり出し、生家を犠牲にして疑似母親たるMを助けた上で、母=Mは亡くなり、新生ボンドの再登場になるのだと思いました。
 冷戦時代の情報活動は国家対国家だったけれど、今では国家対テロリストになってしまって物語の大枠が小さくなっていると言えるだろうか。ボンドも内なる敵と戦わなければならないのと同様、かのチャーリー・マフィンは最初から内なる敵を背後にロシアとも戦っていました。前にも報告したように三部作2作目でMI6に殺されかけたMI5のチャーリーを描く最近作では、国内工作のMI5と外国での活動が主たるMI6の英国情報部という組織内における権力闘争が、対ロシアとの情報合戦と同様の比重で描かれるので、誰がいつ何をどんな風に言ったか非常に細かく描写されます。かつスパイの常套手段と言うか、味方を含めて人を欺く習性により、言葉の表面の意味と本心がかなりの頻度で異なるので、Kindle上の英語読解に苦戦しています。写真はDame Judith Olivia Denchに敬意を表して。