遠ざかる風景
木曜日は今年で3回目の豊平塾での講演。豊平、月寒のお年寄り90名に2時間近く日本映画の話をする。平均年齢75歳と言うので自分より1回り前の世代に焦点を当ててスライドを作りました。
70年代のテレビ・ドラマの名脚本家(向田邦子、倉本聡、山田太一)の話題を枕に山田太一の松竹での師匠木下恵介、そしてライバルの黒澤明。『青い山脈』に代表される戦後日活の青春映画におけるディスカッションと民主主義。戦後のアプレ・ゲールを引きずる俳優としての鶴田浩二。家族と言うテーマと映画の話、そしてキネ旬の日本映画ベスト100から10本程度紹介。最後に芝山幹郎さんの『二十四の瞳』を取り上げての音楽と映像の解釈を借用して映画の技法の説明。
汗をかきながら話を終えました。途中の休憩の時に、母親の愛情の例として取り上げた木下恵介の『陸軍』について中学生の時に父と見たと言う80代半ばの男性の方が感想を言いに来てくれました。この映画は反戦映画ではないのですが、ラストの10分間で出征する息子の行列を母親(田中絹代)が追いかけ続けるシーンに陸軍将校が激怒したいう有名なエピソードがあります。セリフのないこの場面で、観客は母親の心情を容易に読み取ることが出来ます。つまり潔くお国のために死んでおいでというのとは真逆に、どうかして生きて帰っておくれという真情が、田中絹代の表情に明確にみてとれるからです。
最後に取り上げた『二十四の瞳』では、キネ旬の木下恵介特集での芝山さんの解説が面白くて紹介しました。この先生と教え子の物語では、小学校が舞台ですので唱歌を無理なく使うことが出来ます。物語をサポートし、強化し、引っ張っていくような音楽使い方のうまさ。それと瀬戸内海の小豆島の風景。そして去っていく先生や、生徒たちの遠ざかる風景が、人との別れ、喪失を映像的に象徴しているという指摘がとっても興味深く思えて取り上げたのですが、うまく説明できなかったような気がして、少し残念でした。