ドン・チェリーの『ヒア&ナウ』とナチュラリティ

 昨日は61歳の誕生日。久しぶりの論文を提出。家ではささやかにお祝いをしてくれました。
 さて今日は日曜日なのでのんびりしようと思っていたけれど、どうしても4時過ぎに目が覚めてしまう。ま、夜10時前に寝てしまえば、5時くらいでも寝足りている事になりますが。
 1970年代ジャズにはフュージョン・ジャズというジャズに様々な音楽の要素、リズムがフューズ(癒合する)した音楽が登場しました。ロックを中心に、ラテンやアフリカのリズムなどを加えたジャズには、チック・コーリアのリターン・ツー・フォーエバーのような良質なフュージョンもあれば、シャリコマ(コマーシャリズムをバンドマン的にひっくり返した言い方)志向の安手の聞きやすいものもありました。
 その中で、ドン・チェリーの"Hear & Now"(1976)は、聞きやすく、ほのぼのとしてでも、優れたジャズ・アルバムになっています。60年代後半から70年代にかけて、コルトレーン死後のニュー・ジャズを担ったミュージシャンの多くは、ちょっとづつスタンスを変えて、自分なりのジャズを作っていますが、このドン・チェリーも東洋的な、インド仏教的な自然観をテーマに、くつろいだ演奏を聞かせてくれます。ドン・チェリーのポケット・トランペット(ジャケット写真から愛用の小型ペットのように見えます)は、時にやさしく、時に鋭く、ライナー・ノーツによればマイルスや日野てる正を思わせると書かれますが、僕は唯一無二のサウンドだと思います。
 そして『アンダー・ファイア』のように、管楽器を支えるメンバーのバッキングがいい。というか、リズムがロック、ラテン、アフリカンと多彩で面白い。パーソネルにはトニー・ウィリアウム(ds)スやマイケル・ブレッカー(ts), マーカス・ミラーのようなビッグ・ネームの他に、レニー・ホワイトのようにリターン・ツー・フォーエバーに在籍し、マーカス・ミラーとジャマイカ・ボーイズを結成していた中堅フュージョン・ジャズのドラマーもいます。休みの昼にのんびりとお酒を呑みながら聞くには最適の音楽。アマゾンなどのレビューを見ると、呪文ボーカルあり、フルートありで楽しく面白いけれど、何がやりたいのか分からない、という評価もあるけれど、僕としてはポストモダンでポップなジャズとして興味深く聞けます。
 たぶんジャズ・ファンって真面目なジャズ一筋の人が多いのかなと想像します。僕はコアなジャズも好きだけれど、ジャズをルーツにいろんな音楽を取り入れたいというミュージシャンの志向とが、僕のリスナーとしての志向でもあるんですね。それとジャズは他のポピュラー音楽の中でも、音楽性(テクニカルな意味も含めて)と精神性(いわゆるスピリチュアリティですね)が高いので、そこを基盤として他のジャンルにクロスオーバーしたり、ハイブリッドして生まれる音楽のレベルは高くなる可能性が強い。
 それにしても"Hear & Now"をずっと"Here & Now"「今、ここで」と勘違いしていましたけれど、これは「今を聞け」、「今聞かなかればならないのはこの音楽なんだ」という意味でしょうか。