ガトーの『アンダー・ファイア』を鼓舞する

 昨年スピリチュアル・ジャズを標榜して東北で発表したのを、何とかちゃんと文章にしたいと考えていますが、その時発見したのがファラオ・サンダース。これは前にも書いたのを覚えています。その代表作『ブラック・ユニティ』は今もほぼ毎日聞いていますが、その演奏をぐいぐい引っ張っているベースのスタンリー・クラーク
 彼は僕の別のお気に入り・アルバム『アンダー・ファイア』でも同様の牽引車的な役割を果たしています。1971年ベルトリッチ監督の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の音楽で有名になったガトー・バリビエリの代表作です。ガトー(「猫}?)はアルゼンチンのテナー・サックス奏者で、ヨーロッパで有名になり、最初はフリー・ジャズ的だったのが、南米のフォルクローレ的なメロディを1970年代のフュージョン的な演奏をして世界のジャズ・ファンに知られるようになります。
 その荒っぽいサウンド、ちょっと演歌的なセンチメンタルな演奏を好まない人もいますが、僕はいくつかのアルバムは好きで聴いています。特に優れたミュージシャンとか、何か志をもった芸術家と言うのではないのですが、その南米の素朴なメロディーとガトーの荒削りなテナー・サウンド、そして手練れのジャズ・ミュージシャンのバッキングがうまくはまるととてもいい演奏になります。
 というのはチャプター〜という何枚か(1〜4まであったような)の演奏と『アンダー・ファイア』とを比べると違いが明瞭になりました。チャプター・シリーズの全部がそうという訳ではありませんが、南米のローカルなミュージシャンのバックでテナーを吹くガトーは、やはりいい意味ではなくローカルな、ちょっとしょぼいテナーに聞こえてきます。
 ま、『アンダー・ファイア』でフィーチャーされているフュージョン・キーボードの第一人者ロニー・リストン・スミス、ギターのアーバークロンビー、ドラムスのロイ・へインズ、パーカッションのアイアート・モレイラ、ムトーメ、そしてベースのスタンリー・クラークがすごいんだとあらためて納得します。
 そしてスタンリー・クラークのベースが何故素晴らしいかと言うと、音を食ったり、リズムが走ったりするのではなく、でもコンマ何秒かで先を行った音を出している事が、演奏全体を引っ張っている理由ではないかと考えているのですが。この辺り、実際にベースや楽器を演奏する人に聞いてみたいところです。