メディアの変遷とミステリー

 またマイケル・コナリーの翻訳新作ですが、ハリー・ボッシュではありません。『ザ・ポエット』で登場したジャック・マカヴォイという新聞記者のミニ・シリーズです。未訳3作を含めて15作もあるハリー・ボッシュや、これも未訳2作を含めて4作あるミッキー・ハラー(リンカーン弁護士)に比べると、まだ認知度がは低い。
 さて今回翻訳の出た『スケアクロウ』(講談社文庫、上下巻)は、『ザ・ポエット』ではデンヴァ―の新聞記者だったジャック・マカヴォイが「ザ・ポエット」の事件でベスト・セラーをものし、LAタイムズの記者となっていたのですが、2週間後に解雇されると言う通知を受けるところから始まります。
 ぼくはたぶんハリー・ボッシュものと勘違いして原書ペーパーを注文して、読んだのでかなりの既読感と、でもやはり英語なので分からない部分もあったりして、それが翻訳で分かるところが面白い。原著が2009年発刊で読んだのが、2010年か11年だと思いますが、新聞がインターネットに侵食されつつある時期だったでしょうか。
 『ザ・ポエット』(1996)では、デンヴァ―と言うローカルな新聞社から、その事件でロサンゼルスの新聞に引き抜かれるわけですが、コナリー自身がロサンゼルス・タイムズの記者を10年以上やっていてピューリッツアー賞の最終選考まで残った事もあると言うのですからそこそこ腕のある記者だったのでしょう。その古巣のロサンゼルス・タイムズは2000年にシカゴ・トリビューンを発行するトリビューン社に買収され、そのトリビューン社自体が経営不振で2007年には別なメディア・グループに買収されていた。ロサンゼルス・タイムズは生き残ったが往時の栄光はない。もともとアメリカには日本のような全国紙はないが、安泰なのはニューヨーク・タイムズワシントン・ポスト、そしてウォール・ストリート・ジャーナルくらいだと言われる。そのニューヨーク・タイムズから時々メールで講読の宣伝が来るのはそんな時代だからだろうか。数日前新聞でニューオリンズの新聞が日刊を廃止すると言う報道があった。
 そんなメディア変貌の時代のネットを使ったと言うか、企業のインターネット・セキュリティの責任者が犯罪者と言う設定です。ネットのプロですから、ジャック・マカヴォイの個人情報に侵入して、彼の銀行口座から預金を引きおろし、カードを凍結するのは朝飯前と言うか。1995年にサンドラ・ブロック主演で『インターネット』という同様の被害にあう女性が主人公の映画ありましたね。
 さて、ジャック・マカヴォイが主人公の作品は、ハリー・ボッシュものよりもミステリーとして優れていると言う評価もあります。僕としては、刑事ではなくジャーナリストが主人公である設定が、ストーリーの切れは弱いが、深見は増していると思います。つまりボッシュものほどスッキリしないが、だからこそリアルであると感じるのですね。
 実はこの項のタイトルは「ジャーナリスト〜作家」として、その関わりを書くつもりでしたが、メディアの変遷の方向に行ってしまったので、当初のタイトルは次にの項に付け直します。