師弟という関係

 師と弟子という関係は、その分野の指導を中心とする能力と人間性が取り結ぶ関係としては様々な分野で見る事ができます。師弟とは言えないかも知れないけれど、指導者の暴力と指導される生徒の自殺と言う愚かしくも悲劇的な事件も記憶に新しいところです。
 さて学会の委員会でお会いした時に話題になった本が著者のOさんから送られてきました。実はその本の原型はブログでも読んでいたとはいえ、やはり本となって通読しますと、稀有な師弟のあり方に羨望の念を禁じ得ません。読みながらいろんな事を感じ、そして考えました。
 『S先生のこと』におけるS先生はアメリカ文学研究者・翻訳家そして作家でもあった。そのS先生が2年前の7月に85才でお亡くなりになり、その直後から教え子でったOさんのブログで追悼のエッセイが始まった。
 そこではS先生の研究者としての真摯さと、教え子でもあり間接的な弟子ともいえるOさんとの交流、そして悲劇的な身辺と研究との関係が綴られ、それは素晴らしくも特別だったように思えます。またS先生がOさんにとって、直接の指導教官であるO先生の友人であったという事も単なる師弟関係とは少し違う色合いを帯びて、それもまたいい。年を取り病床にあったO先生の気を許した弟子のOさんへの我儘な甘え方もそれはそれでいいし、S先生のOさんへの接し方にみられる遠慮のようなものも節度があっていい。
 お二人の研究者としての能力と人柄が相互にうち響くものでなければ、このような関係が生まれず、またこのような本も生まれなかったのではないか。読みながら怠惰な週末の時間における一陣の涼やかな風の様に感じました。