日本のスピリチュアル・ジャズ

 ジャズはポップ・ミュージックのジャンルではスピリチュアリティの高い音楽だが、特に黒人のジャズにおいては、アフリカ起源の精神性と、アメリカにおける差別や苦境の中で自然に出てくる宗教的な救い・自由・平和が表現される。
 では白人のジャズはどうか、日本人のジャズにスピリチュアリティはどう表出されているかについて何となく考えていた。白人のジャズの中では『生と死の幻想』(1974)でのエロス・クロノス・タナトスについて、『残ぼう』(1976)において文明の終焉の後に生き残るものついて描いたキース・ジャレットスピリチュアル・ジャズの筆頭に挙げられるだろうか。メンバーの一人であるベースのチャーリー・ヘイデンもジャズのスピリチュアリティに関心の高いミュージシャンだ。
 さて日本人では、日野皓正が該当すると僕は思っています。1960年代そのルックスも相まってマスコミ的にも圧倒的に人気のあったトランペッターですが、実はその演奏は日本的な間や沈黙の演奏的表現も含めて稀な演奏家だと思います。今聞いているのは『壽歌』(ほぎうた)で、まあこれは内容も日本的な自然との交感を歌ったアルバムです。
 間や沈黙を使った静謐な表現と、一転してダイナミックな音の饗宴のコンビネーションがうまい。このような精神性を表現するミュージシャンには日野と時々共演する菊池雅章(ピアノ)がいるし、菊池が尺八の山本邦山と共演した『銀界』はべたに日本的な世界を描いたジャズのアルバムです。写真はキースの『残ぼう』。