妻を脱獄させる

 このタイトルでどの映画か特定できる人はかなりの映画通でしょうか。フランス映画『すべて彼女のために』(2008)とそのリメイク版『スリー・デイズ』(2010)です。前者は前に見ていて、後者は今朝見ました。
 無実の罪で殺人犯とされた妻を教師の夫が脱獄させると言うサスペンスです。これは犯罪者ではない夫が如何に妻を脱獄させるという素人には極端に困難な行動がサスペンスになるんですね。前者はヴァンサン・ランドンという少しむさくるしいごく普通の夫に見える俳優が演じるのでリアリティがあるのですが、後者はラッセル・クロウが演じるので、教師とは言え脱獄くらい朝飯前(ではないけれど)できそうに見えるのが少し・・・
 ただ脱獄させる時の妻のリアクションが、予期していない夫の行動に驚いて拒否したり(それが普通の反応でしょうね)、逃亡中に絶望して車からそっと自殺的に降りようとする場面にリアリティを感じました。また脱獄が成功した後に、刑事が無実の証拠を見つけそうになりながら、そうならない点にも。つまり警察が無実を証明できれば脱獄して南米にいる主人公たちも無事アメリカに帰国できるが、少々安易なハッピー・エンディングになってしまう。しかし警察も闇雲に彼女を犯人としようとしているのではないという事をこの小さいエピソードで示し、その後に主人公一家は取りあえず一時的な安心を取り戻し愛情深い家族の光景を映し出して映画は終わる。つまり無実が証明されなければ、アメリカの警察が南米まで脱獄犯の一家を追い続けるのは容易に想像できるから。このような細部をきちんと描写し、ハッピー・エンディングのようで同時に現実のリアルさを失わない点は監督のポール・ハギスのうまいところです。『クラッシュ』(2004)や『告発のとき』(2007)でも、脚本のみの作品でもそう。
 俳優では操作の指揮を執る黒人警部補を演じるレニー・ジェームズが印象に残った。走ったり、塀を飛び越えたりの体技もふくめて。妻役のエリザベス・バンクスは『崖っぷちの男』ではタフな交渉人を演じたり、けっこう役柄の幅は広いかも知れない。写真はタフな役の方です。