アプレ・ゲール

 昨日かみさんと『次郎長三国志』(1963)を見ました。マキノ雅弘監督の「三国志」シリーズ4作の1作目。実はこの東映版の前に東宝でも同様のシリーズを撮っているので、見比べるのも一興です。
 さて東映版の次郎長は鶴田浩二、当時39歳、ニヒルな美貌と口跡の良さが際立つ。でも一方で東宝板の次郎長を演じた小堀明男も風貌は地味でしたが、親分としての貫録、そそてやはり口跡がよく僕は好きでした。何と森の石松森繁久弥。達者で生きのいい石松でした。
 鶴田次郎長の最初の子分は桶屋の鬼吉(山城新吾)、関東綱五郎が松形弘樹(プレスリー?みたいな癖のある二枚目)、増川仙右衛門に津川雅彦(監督の甥っ子ですね)などなど。
 鶴田浩二はそのまま、1960年代の東映やくざ映画高倉健と一緒にしょって立ち、「日本侠客伝」をはじめとして多くの作品をマキノ雅弘が監督をしました。そして「三国志」シリーズにも出ていた藤純子=緋牡丹お竜の引退記念映画『関東緋桜一家』を最後にメガホンをおきます。
 そして深作欣二の『仁義なき戦い』を代表とする実録シリーズが70年代を席巻する。そんな中、鶴田浩二は1976年からNHKの『男たちの旅路』で警備会社の若い警備員を指導する役で注目された。山田太一脚本のこのテレビ・シリーズは世代による価値観の違い、老人問題、障害者問題など様々なテーマを取り上げ面白いテレビ・ドラマでした。70年代から80年代にかけては向田邦子倉本聡など優れた脚本家がいたテレビ・ドラマの黄金時だった。
 『男たちの旅路』でも鶴田浩二は彼自身の履歴をなぞるような役で、特攻くずれの中年と、今風の若者の対立と和解が描かれる。若者は桃井かおりと水谷豊。吉岡警備補(鶴田浩二)は戦争の事、死んでいった戦友の事が忘れられず、戦争を知らない、知ろうともしない若者と鋭く対立する。他の大人のように若者に迎合しない。毅然とした頑なさが若い桃井かおりを引き付ける。この時、鶴田浩二は52歳、桃井かおりは24歳。水谷豊も24歳かな。『傷だらけの天使』の時のショウケンを慕う弟キャラがここでも悪くなかった。その後の水谷豊には興味なし。桃井かおりはエッセイもうまく、歌も面白かったけれど、アーティスティックな俳優としての展開は苦戦しているようにも見えて。
 僕と同い年だけれど、みんな60になったか今年なるんですね。夏木マリも。どの年齢で輝くかについては難しいというか、みんな違うというか。高校で言うと昭和26年生まれが大半、でも僕は3月の早生まれなので1952年生まれの人も仲間です。辰年ですので、坂本龍一とか村上龍
 鶴田浩二の甘い、しかしニヒルな表情はアプレ・ゲール(「戦争の後」つまり戦後の虚無的な若者たち)としての俳優の仮面だったのかも知れない。