沈黙のための言葉

 吉本隆明の詩が好きで「沈黙ための言葉」もその一つだった。『固有時との対話』、『転位のための十篇』も。その次に『言語にとって美とはなにか』を読んだが、よく分かったかどうも覚えていない。
 いずれにしても、1970年代初期に20台前半だった僕にとって、「よしもとりゅうめい」は文化的イコンだった。東京工業大学を卒業し、インク会社に勤め、詩を書き、『共同幻想論』を書いた。
 「共同幻想」は、戦前は天皇制、戦後はマルクス主義に絡め取られた個人の自立を「〜制」、「〜イズム」を相対化して達成しようとする試みだと思う。今手にしても分からないところが多いが、それも若者にとっては魅力だった。
 1980年代以降大衆文化、サブ・カルチャーにも関心を抱くようになるが、それ以前の読者としては違和感を感じるようになる。しかし棺の蓋を置いた今、一貫して世界の様々な分野を横断して考察しようとしたのだと思い直します。合掌。