『憎しみ』の監督

 始まりは在宅してみていた『クリムゾン・リバー』(2000)から。『レオン』のジャン・レノ主演のホラーがかったミステリーものだが、僕は見た後か、途中にネットで作品の情報を仕入れる癖がある。で監督を調べるとあの『憎しみ』(La Haine、1995年)のマチュー・カソヴィッツだった。
 「北米文化論」で都市と郊外の発達をテーマに4年ほど続けているけれど、2005年のパリ郊外のバンリュ―での暴動も取り上げた。アメリカ(イギリス型)の郊外は白人中流階級の住む場所だった(今は少し違う)けれど、パリの場合は市内の高級アパルトマンに金持ちが住み、バンリュ―(=禁止された場所)と呼ばれる郊外は 特に1970年代からは旧植民地からの移民(アルジェリアなどからのアラブ人、黒人)が住む低所得世帯用公営住宅団地を指すようになった。
 このバンリューは犯罪率の高さ、ドラッグの密売、そしてラップの流行などアメリカのゲットーに似ている。 そしてフランス語を母国語とする移民2,3世の若者たちはフランス社会から受け入れられず、仕事もなく社会への怒りや憎しみを抱えている。それが爆発したのが、2005年10月27日パリの北東部のバンリュー、クリシー=ス=ボワにおける数100人の若者と警察による衝突と暴動だった。
 そして全国に拡がったその暴動を予感したかのような作品がマチュー・カソヴィッツが監督した、バンリューを舞台にし人種差別を扱った『憎しみ』。ユダヤ系のヴィンス、黒人ボクサーのユベール、アラブ系のサイードたちバンリューに住む3人が、ヴィンスが暴動の最中に警官が落とした拳銃を拾った事をきっかけに、警察への憎しみを募らせていく。
 ヴィンスを演じるヴァンサン・カッセルは『クリムゾン・リバー』にも出演しているし、『イースタン・プロミス』(2007、デヴィッド・クローネンバーグ監督)や『ブラック・スワン』(2010、ダーレン・アロノフスキー監督)でも副主人公といっていい役で出ています。『憎しみ』の時は29才だったけれど、坊主頭にしているので分かりませんでした。
 さてきっかけの『クリムゾン・リバー』自体はたいした映画でありませんでしたが、犯人の母親役であのドミニク・サンダが出ていました。『暗殺の森』(1970、ベルトリッチ監督)、『初恋』(1970、マクシミリアン・シェル監督)、『悲しみの青春』(1970、ヴィットリオ・デ・シーカ監督)などに主演し、パルコのCMにもででていた当時のアイコンでした。
 そう言えば、俳優でもあるマチュー・カソヴィッツは、スピルバーグの『ミュンヘン』(2005)で、ビリング3番目のロバート(爆発物担当)として出演していましたけれど、あまり印象にありません。