60年代の香り

 ジャズ・フルートはサックス奏者の持ち替え楽器で、メインに吹いている人はハービー・マンとCTIで活躍したヒューバート・ローズ、そしてビル・エバンスとの共演で有名なジェレミー・スタイグ、ラテン・ジャズのデイヴ・ヴァレンタインなどを除いてはほとんどいない。
 そのジェレミー・スタイグの2005年版『フルート・オン・ザ・エッジ』を聞く。ビル・エバンスとの『ホワッツ・ニュー』(1969)では23才だったスタイグは63才になっているけれど、相変わらずジャズ・ロック的かつラテン・ジャズ的な多彩な演奏を聞かせる。フルートを吹きながら歌うようなハミング奏法も健在だ。
 しかしドルフィーのたとえようもなく美しいYou Don't Know What Love Is(アルバムLast Recording所収)も含めて、あらためて僕の気分にフィットしたのは、ジョー・ファレルOutback(アルバムOutback所収、1971)でした。ピアノのチック・コリア、パーカッションのアイアート・モレイラと聞くと、数か月後の録音のReturn to Forever(1972)を思わせます。この『リターン・ツー・フォーエバー』は当時のジャズ喫茶を文字通り席巻した、フュージョン・ジャズの金字塔(少しオーバーかな?)でした。
 86年に49才で亡くなったジョー・ファレルは60年にシカゴからニューヨークに出てきて、67年にエルヴィン・ジョーンズ・トリオに参加しています。ベースはジミー・ギャリソンですから、コルトレーンの亡くなった直後のサックスを担う逸材と目されたよう。
 実はアルバム『アウトバック』は60年代と70年代をつなぐメンバーそして音作りとなっている。60年代を代表するのは、ドラムスのエルヴィン・ジョーンズとベースのバスター・ウィリアムズ。バスター・ウィリアムズはニューヨークでも聞いたことがありますが、コルトレーンのアルバムにも参加したことあるベーシストです。彼の音は、『リターン・ツー・フォーエバー』のスタンリー・クラークと比べると明らかに60年代の音ですね。スタンリー・クラークの切れのいい、細かいフレーズに対して、バスター・ウィリアムズの音は野太い、悠々迫らざるフレーズで面白いです。
 という訳で、『アウトバック』は60年代の香りを残しつつ、70年代の足音を響かせる、時代転換期の貴重な音源だと思います。もちろんジョー・ファレルの演奏はフルートもサックスもいいのですが、どうもコルトレーン派の逸材がフュージョンの波に呑まれてしまったのかなと思います。
 さてジャズ・フルートではかなり詳しく面白いサイトが見つかりましたので、紹介します。
 http://jazzflute.livedoor.biz/