哲学するサーファー

 ドン・ウィンズローの未読の文庫本をアマゾンで取り寄せた中に『夜明けのパトロール』(角川)があった。これがサーフィンを生きがいとする私立探偵小説でありました。舞台はカリフォルニアの最南端サンディエゴ近くのパシフィック・ビーチ。20年に一度という大波を仲間(水難救助員、警察官、ウエイトレス)と待ちながら、疾走したストリッパーの捜査を依頼される主人公のブーン・ダニエルス。
 疾走したストリッパーの捜査は、メキシコからの不法移民・少女売春などの悲劇につながりつつ、ブーンの人間関係(元恋人、仲間との軋轢や崩壊)も巻き込んでいきます。さらにサーフィンが単なるスポーツではなく、自然との共生というか、波に関する哲学的な?考察もあって面白い作品です。
 このサーフィンをテーマとする作品は、『ビッグ・ウェンズデー』(1978)、『源にふれろ』(1984)、『ハート・ブルー』(1991)が挙げられる。
 『ビッグ・ウェンズデー』はマ『デリンジャー』(1973)、『風とライオン』(1975)、『若き勇者たち』(1985)などマッチョ的な作風のジョン・ミリアス監督によるもの。3人のサーファー仲間のベトナム戦争経験も含めた青春ものと言えるだろうか。
 ケム・ナンの『源にふれろ』では18歳の若者が行方不明の姉を探しにサーフィンのメッカ、ハンティントン・ビーチに出かけ、性と暴力と麻薬の中で大人になってく、イニシエーションものとも、青春ものとも、教養小説ともいえるだろうか。
 ハート・ブルー』はキャサリン・ビグロー監督のフェティッシュな水の描写が印象的だった。キアヌー・リーブス演じるFBI捜査官が、銀行強盗の犯人と思われるサーファー・グループに潜入するためにサーフィンを習う。サーファーのリーダー(パトリック・スウェイジ)はボーディと呼ばれている。ボーディは"Bodhi"でつまり「菩提」、悟りの境地に達した達人サーファーと言う訳です。この作品ではリーブスの先輩捜査官を『ビッグ・ウェンズデー』の3人のサーファーの一人を演じるゲーリー・ビュ―ジーなのは、先行作品への目配せかオマージュのような。
 これがタイトルとブーンにもつながるのですが、哲学的なサーフィンはビートとも繋がりがありそうです。髪も体も日焼けしたあまり知的とは言えそうに見えないサーファーの中に、自然と人間、波の中に宇宙の叡智を感じるサーファーもいたりして面白そう。