若き日のウォルター・ウィザーズ

 ドン・ウィンズローの作品に『歓喜の島』(1997)というのがあるが、この作品ではウォルター・ウィザーズが元CIA,現民間の調査員として、大統領候補の上院議員夫妻の護衛にあたる。時代は1958年で議員夫妻はケネディとジャクリーンがモデル。議員と絡む美人女優もモンローを髣髴とさせる。またウォルターの恋人がジャズ・シンガーで、各章のタイトルも「懐かしのストックホルム」、「ホワッツ・ニュー」などジャズ・ファンにとってはなかなか興味深い。もちろんジャズのスタンダードからとったタイトルは内容とも密接に関係している。
 実はこのウォルター・ウィザーズは、ニール・ケアリーのシリーズ第4作『ウォーター・スライドをのぼれ』(1994)でアル中の落ちぶれた私立探偵として登場している。作品発表年からも明らかなように、作者が当初考えていたよりも重要になったが、殺して?しまったキャラクターを、別な作品において人生の最良の時代を生きる登場人物として再生したわけです。
 僕は手元にあった『歓喜の島』を読んでから、あとがきでニール・ケアリー物に主人公が出ていると言うので文庫本6冊を買って、死んでしまうウォルター・ウィザーズもふくめて読んでみました。そして『歓喜の島』において若き溌剌としたウォルターが『ウォーター・スライドをのぼれ』では落ちぶれたアル中探偵となっているのを時系列にしたがって読み進んだわけです。その最後についてはすでに知りつつ。
 さてニール・ケアリーもまた孤児でしたね。ミステリーの主人公で孤児と言えば、ハリー・ボッシュ、そしてキャシー・マロリー。キャシー・マロリーの方は『愛おしい骨』が「このミステリーがすごい」で1位になったキャロル・オコンネルによるシリーズです。