また一つの進路

 4月24日のブログで、4年の演習で卒業研究の発表以外に英米文化学科の学生に相応しい?英語力をつけるために英語を読もうと考えて、就活に即役に立つという観点とは別に、「なぜ働かなくてはならないか」という事を考えるような英語の文献を探したが、見つからない。英米の思想家だけでなく、欧米の思想家の文章の英訳でもいいかなと思っていたのですが、適当な文章が残念ながら見つかりませんでした。
 それでアメリカの小説で、学生の年代に相応しい、そして進路と言う問題にもかかわる作品として、ティム・オブライエンの「レイニー川で」を読む事にした。村上春樹の翻訳で知られている『本当の戦争の戦争の話をしよう』(1990)に収録されているこの短編は、いくつかの授業で使ったお気に入りの作品です。召集令状を受取り、ベトナムに行くか、国外に逃げるか迷う大学を卒業したばかりの22歳の若者の懊悩を描くすぐれた作品です。ティム・オブライエン(作家と同名の主人公)はミネソタのマカレスター大学を出たばかりの、ハーバードの大学院進学も決まっている優秀な青年ですが、自分が反対している戦争への徴集が決まります。当時のベトナム戦争反対の時代風潮としては、召集令状を焼くとか、カナダに逃げるなどの選択肢もありました。ティム青年も悩み、カナダに近いレイニー川のロッジで将来を考える事にします。
 進路で悩むと言っても、公務員人になろうか、私企業にしようかというような選択とはまた一目盛り真剣さが違います。ティム青年の懊悩を理解していて、しかし自分からアドバイスを控えるシーズンオフのロッジの主人が存在感のある、いい味を出しています。
 進路について、悩むと言う共通項が作品選択の一つのキーですが、英語の文章としても、作品の構成もなかなかすぐれた短編と言えます。しかも短編集では途中に収録されていますが、ベトナムの戦場や戦場から戻っての時期が舞台となる他の短編の中では、戦争に行く事を決意する作品なので、時間的にも作品のレベルとしても冒頭にあってもおかしくない作品だと思います。