ギャッツビーのエコー

 村上春樹が2007年はに訳した『ロング・グッドバイ』の訳者あとがきで、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の影響について記している。『ギャツビー』は1925年、The Long Goodbyeは1953年の刊行です。でまだ読み続けているハリー・ボッシュの2作目『ブラック・アイス』(原作1993年)は。『ギャツビー』よりも『ロング・グッドバイ』の影響の濃い作品だと言えようか。
 『ロング・グッドバイ』のマーローが短い付き合いでも気持ちの通じ合ったと思えるテリー・レノックスの偽装自殺を見破り、交流を絶つという原作ですが、実はロバート・アルトマンの映画化では、マーローが最後にテリーを射殺してしまいます。
 ハリーの場合も、テリーに当たるカル・ムーアの偽装自殺を見破り、最後にはムーアを撃たざるとえなくなってします。その辺り、先行する『ロング・グッドバイ』の原作と映画版の両方に微妙に影響を受けていて面白い。テリーはメキシコに行ってメキシコ人風に整形をするんですけれど、ムーアの方はメキシコ人の血を引き、異母兄である麻薬密売のボスを殺して自分の自殺死体と見せかけ、自分の方はボスにおさまってしまう。
 しかし『ギャツビー』における語り手のニック、『ロング・グッドバイ』におけるマーローと違い、ムーアとボッシュは有能だが破滅的な刑事、複雑な家族関係など相似的なキャラクターです。しかもボッシュはムーアを止むおえないとはいえ射殺してしまい、最後には未亡人のシルヴィアと愛し合うようになってしまう。作品としては寄る辺ない二人のラスト・シーンが切なくも?美しい。もっともシリーズを読んでいる読者にとっては、シルヴィアとも別れてしまい、最初の恋人のエレノアと再会し、結婚ししかし別れてしまう。しかもその後に二人の間に娘ができていたなどの、ボッシュと女性に関するややこしい履歴についても知ってしまっているんですけれど。
 実は『ブラック・アイス』の中で、ムーアの未亡人(高校教師)が『長いお別れ』についてボッシュに話している場面があるんですね。しかも国語と文学の授業で生徒にロサンゼルスについて書かれた本を読ませているという設定です。
 もう少しハリーを読み続けるので、LAの地図を買いました。