ディランとプロテスト

 自分からではなくディランの曲と接する機会が数回あった。「北米文化論」で公民権運動について学生に説明する中で、有名な「エメット・ティル」について調べていたら、ディランの歌が出てきた。学生には「バス・ボイコット事件」のローザ・パークスほど有名でないが、もちろんアメリカでは有名な事件だ。授業でエメット・ティルの残酷な映像が出てきて慌てました。
 もう一つは、学生が選んだ曲に"Like a Rolling Stone"があって、訳と映像を準備する。これも久しぶりに聞いたがなかなか歌も詩もいい。以前"It's Alright, Ma"を僕の方で選曲したがこれはうまくいかなかった。「転がる石のように」の方がレトリックも難しくなく、権威に対する皮肉が比較的無理なく腑に落ちる詩のように思える。抗議や怒りの表現って意外と難しい。独りよがりで伝わらない場合も多い。ディランのよくできた詩の場合は、表現する自分のスタンスを明確にして、抗議を隠れ蓑にしない潔さがあるような気がする。初期・中期の歌は本当に歌いたい事を歌っていると思う。でもこれはあらゆる芸術や表現に通底するか。
 ディランのプロテスト・ソングはたくさんあるが、映画にもなった「ハリケーン」も面白い。中川五郎の全訳詩集を引っ張り出したりして、懐かしかったです。