83歳の映画監督

 今朝スター・チャンネルシドニー・ルメットの『その土曜日、7時58分」を観ました。
 2007年の作品でシドニー・ルメット83歳の時の作品です。1957年に『12人の怒れる男』以来50年で43本の映画を撮ってきた超ベテラン監督ですが、たぶん現役最長老でしょう。
 しかも何度も時間を前後する物語の中で次第に家族の崩壊が明るみに出てくるくるような、枯淡の境地とは無縁の映画です。
 これも最近みたアリソン・イーストウッド(79歳で現役監督イーストウッドの娘)の監督作品『レールズ&タイズ』(2007)では家族の喪失と再生を描いていたが、83歳の老監督が息子を殺す父親を描くエネルギーにとりあえず感心する。
 原題のBefore the Devil Knows You're Deadは「悪魔があなたの死に気付く前に」という意味だがこれでは何の事か分からない。出典はアイルランドの乾杯の時の祝福の言葉(Irish Blessing and Toast)で"May you be in heaven half an hour before the devil knows you're dead."。つまり「死ぬ時は悪魔に捕まる前にさっさと天国に行っちまわないとね」という意味のようです。
 このアイルランドの詩は結構長いもので、アイルランドの神、自然、愛など人生のもろもろについて歌っています。映画の題名の直近の部分では「盃に酒をたたえ、頭上の天井が落ちてこないように、そして悪魔に知られる前に天国に召されますように」というもので、映画の内容からは死ぬ前に悪魔に捕まってしまったのは、老境にいたり妻と心静かに最後の日々を暮らそうと思っていた主人公です。愚かな息子たちにより、妻を亡くし、さらには長男を自分の手にかけて死なしめる、彼の悲劇を示唆しているものと思われます。
 この登場人物の誰も救われない物語を作る83歳の監督の精神的な強靭さというか、人生の現実へのぶれない視点には驚かされます。
フィリップ・シ―モア・ホフマンの兄と、イーサン・ホークの弟。