今度はホーソーン

 昨年末はメルヴィルの「バートルビー」でたくさん勉強しました。今度は3月の「若手研究者のためのワークショップ」でHawthorneの短いエッセイ=紀行文 My Visit to Niagaraを取り上げる。サブ・テクストとしてレオ・マークスの『楽園と機械文明―テクノロジーと田園の理想』(研究社、1972年)。
 原著のThe Machine in the Garden: Technology and the Pastoral Idea in Americaは1964年出版。冒頭ホーソーンの(アメリカン・)ノート・ブックに言及するが、これが原書でもなかなか手に入らない。と言うか結構高価で、この時期研究図書費もほぼ使ってしまって。
 アメリカの田園主義が1820年代に出現した機械文明の象徴である列車によって脅かされる。「ナイアガラ行き」が書かれた1844年にはボルチモアオハイオ鉄道を代表とする鉄道網が東部にはできつつあった。
 しかしナイアガラへは開通したエリー運河を船で行くか、駅馬車で行く事に。近づくにつれて壮大な自然の轟音が聞こえてくるにも関わらず見物を後回しにするホーソーンの身振りなど、期待や幻想を重視する現代人に通ずるかも知れない。
 文学者や思想家の荘厳な自然への畏怖が共通しているのが、「ハドソン・リヴァー・スクール」。エマソンの超絶主義的な自然観の影響を受けたというよりも、同時代的な発見とみるべきなのだろう。特に創始者のトマス・コールは歴史画と風景画の両方をテーマにした。そしてその後継者と言われるアッシャー・デュランドの描く自然の風景も、リアリズムというよりも宗教的な趣が見られる。
 スクール次世代のフレデリック・チャーチ、アルバートビアスタット、ジョージ・インネスもそれぞれ特徴はあるが、自然の中に神秘的な雰囲気が感じられるところが、イギリスやヨーロッパの風景画と異なるところだろうか。
 『アメリカ絵画の系譜』(桑原住雄、美術出版社、1977)の表紙にも使われているデュランドの"Kindred Spirits"(「気の合う同志」とか「照応する魂」とか訳されています)。画家(トマス・コール)と詩人(ウイリアム・カレン・ブライアント)がアメリカの壮大な自然に感動しているという絵です。ブライアントはコールの友人で、ワーズワースの影響を受けたロマン派詩人ですが、宗教的(ピューリタニズム)で、かつアメリカ的なテーマを歌おうとした詩人です。因みにこの絵はニューヨーク市立図書館所蔵となっていますが、図書館に隣接してブライアント・パークがあります。ブライアントの坐像のある市民の憩いの場です。昼食をとったり、備え付けのテーブルで老人たちがチェスをしたり、夏にはコンサートもありました。でも80年代までは麻薬密売の危ない場所でもあったようです。