『悲しき熱帯』の衝撃

 新聞にレビストロースと出ていたので一瞬分からなかったが、朝日だけでなく毎日・読売とチェックしたがどれもレビストロース。文化部のベテランでなくても分かりそうなものだけど。
 サイードのずっと前に西欧の思考の限界を指摘した知の巨人だった。1930年哲学のアグレガシオン(1級教員資格とか大学教授資格のための試験らしい)に受かり、同時期にサルトルボーボワールメルロ=ポンティポール・ニザンなどがいたというから、フランスだけではなく世界のエリートが集まっているような壮観としか言いようのない知的光景ですね。
 卒業後ブラジルに数年いてその短期間(3年ほど)のフィールド・ワークが後に重要になる。第2次大戦では兵士として参戦するが、ナチスがフランスを占領した後、ユダヤ人のレヴィ=ストロースアメリカに亡命する。そこで同じ亡命仲間のユダヤ系ロシア人ヤコブソンと出会い、ソシュールの重要さを知る。ここら辺りは思想史の初歩だが、アメリカでは西部劇を楽しんだらしいというのが面白い。
 アメリカ映画とユダヤ人のテーマも普遍的だけれど、ジーンズで有名なリーヴァイスもユダヤアメリカ人で、ユダヤ人には被服産業に従事していた人が多い。ベルギー生まれのユダヤ系フランス人レヴィ=ストロースユダヤアメリカ人リーヴァイス(Levis Strauus)はヨーロッパのどこかで血がつながっていたかも知れない。
 1955年に出た詩的な表現に満ちた文化人類学の傑作『悲しき熱帯』は、ブランショバタイユ、エリュアーデを熱狂させ、仏教とキリスト教の間にイスラムを織り込む事で西洋(オクシデント)と東洋(オリエント)を世界全体の中にとらえ、マルキシズムもそして自分の研究の拠って立つ基盤である人類学さえも相対化する。
 「野生」の両義性を認識しつつ、人間なしで始まり終わる世界を見据える、ある種の解脱の境地を描いたレヴィ=ストロースがその半世紀後、冥界に入った。合掌。