ロンドンで本読む

 W君の教えてくれた丸谷才一編『ロンドンで本を読む』(光文社知恵の森文庫、2007)は本格的なイギリスの書評アンソロジーだった。これを紹介するのはけっこう難しそうだが、書評について考えるのにはうってつけの素材なので後からゆっくり書き足していこう。
さてこの本はイギリスの書評の翻訳とそれぞれの翻訳の枕に編者の丸谷才一のコメント。取り上げる作品はカズオ・イシグロの『日の残り』をサルマン・ラシュディが論じ、翻訳は富士川義之。『ユリシーズ』をアンソニー・バージェすが論じ、大澤正佳が訳すという豪華版だ。
 しかし書評の執筆者は一流の作家だけではなく、イギリス特有の書評ジャーナリストも多い。いずれも紹介と評価に加えて、執筆者の見識と趣味、つまり書評の芸を披露する。それを丸谷才一は批評性というが批評性は評価のところで発揮するものではないだろうか。
 正確に評価をした上で、対象から離れないぎりぎりのところで表出する執筆者の知性に裏打ちされたレトリック。単なるレトリックに終わらない人生観の表現。書評がそこまで到達できれば、言う事ない(と思う)。